はじめに
セミナー資料は、セミナーの成功を左右する重要な要素です。しかし、どのように準備し、どのような手順で作成すれば良いのか、また、どのような点に注意すれば失敗しないのかは簡単ではありません。
本記事では、セミナー資料の作り方について、準備から作成手順、そして失敗しないための注意点まで、ひと通りのポイントをご紹介します。セミナー成功につながるような資料作りを目指しましょう。
セミナー資料を作る前に必要な準備
参加者に伝わりやすいセミナー資料の作成は、いきなり現物を作り込むのではなく、まずは準備を整えることから始まります。以下でその流れを説明します。
対象者を定める
初めに、セミナーの対象者を明確に定めることが重要です。対象者によって、作成する資料の形や内容が変わってくるからです。
例えば、マーケティングを目的としたセミナーにおいて、リード(見込み客)の獲得を目指すのであれば、「対象者が購買行動のどの段階にいるのか」についてマーケティングファネル(顧客が認知から購買に至る流れを示すフレームワーク)を活用するなどしてイメージする必要があります。「自社の製品・サービスに対する興味・関心がどの程度なのか」「どこまで検討が進んでいるのか」などを具体的にイメージし、その段階にいる対象者が何を求めているのかを考えることで、資料に盛り込むべき内容が見えてくるはずです。
あまり厳密に定めなくても構いませんが、できればペルソナ(典型的なユーザー像)まで落とし込むことで、資料の内容が具体的になり、より説得力が増します。
目的を明確にする
セミナーの対象者を定め、その課題や願望から資料に盛り込むべき内容が見えてきたところで、それらを基にセミナーの目的を明確にします。目的とは「セミナーに参加することで参加者にどうなって欲しいのか」「どのように行動して欲しいのか」という「ゴール」と言い換えてもよいかもしれません。
目的を明確にすることにより、この後に続く一連のプロセスが整合性のとれたものとなり、セミナー資料も一貫性のあるブレのない内容になります。
テーマ・コンセプトを決める
次に、目的を見据えながら、セミナーのテーマ・コンセプトを決定します。目的を明確にする際、対象者の課題や願望を第一に考えることを実践できていれば、自ずとテーマ・コンセプトもそれに沿ったものとなり、対象者に対する確実な訴求が期待できます。そこで生まれたテーマ・コンセプトを基に、資料のタイトルまで見当をつけられれば理想ですが、この段階ではそこまで進めなくても問題はありません。
セミナー資料のテーマの例としては、「営業担当者のリード獲得のコツと顧客情報管理の効率化」などが挙げられるでしょう。この場合、資料のコンセプトとしては「見込み顧客への連絡タイミングや商談のフローなどの有用なノウハウを提供しつつ、自社の営業支援ツールがどのように営業業務の効率化に役立つかを図解入りで理解してもらう」といったものが考えられます。
セミナーのテーマ・コンセプトがまとまっていないと、次のプロセスである情報収集において意図や方向性が拡散してしまい、雑多な情報となっていざセミナー資料を作る段階で取捨選択に苦労します。また、全体の流れ・構成を決める際にも軸が安定せず、冗長で分かりにくいものになってしまいがちです。
テーマに従い情報の収集・整理を行う
テーマ・コンセプトが決まったら、それに沿って必要な情報を収集します。セミナーで伝えたい内容の根拠となるようなデータや情報はもちろんのこと、実際の事例(前例となる事実や実績)があると、明確にイメージができるようになり説得力が増します。この時、Webサイトなどを活用して広く情報を収集することは大切ですが、肝心な軸がぶれないよう取捨選択は意識して行う必要があります。
実際に情報を深く読み込んだり分析したりするのは資料作成時で問題ありません。この段階では活用できる情報をできる限り収集し、整理しておくことが重要です。
全体の流れ・構成を決める
テーマ・コンセプトに沿った情報が収集・整理できたら、「導入~本題~結論(まとめ)」といった基本構成を基に、セミナー資料全体の流れ・構成を決めます。大枠の流れが決まれば問題はありませんが、各構成要素は必要に応じて細分化しておくと、作り込む際の手間が省けスムーズに進められます。例えば、本題を「課題~解決策~成果」に分ける、といった具合です。
ところで、「導入~本題~結論(まとめ)」という基本構成は、文章や話を組み立てる型としてよく知られている「起承転結」に従ったものと見ることもできますが、セミナーで最も重要なのは参加者との「結論」共有なので、必ずしもこれに従う必要はありません。「導入~結論~根拠」など、場合によっては結論を先に言及し、インパクトを追求して印象を強める方法もあります。
セミナー資料を作成する手順
ここまでの事前準備を実施することにより、全体の流れ・構成までが決まっていれば、実際のセミナー資料の作成はスムーズに進められます。とはいえ、やみくもに作り始めればよいというわけではなく、以下のように基本的な手順が存在します。
- タイトルを決定する
- 全体の章の構成・見出しを調整する
- 各章内の構成を調整する
- スライドの中身を作成する
- まとめを作成する
- リハーサルを通してブラッシュアップを繰り返す
ここでは各項目について順番に解説します。
タイトルを決定する
セミナー資料のタイトルは、集客にも大いに影響する非常に重要な要素です。それだけに、事前準備で決めたテーマ・コンセプトに沿って慎重に決定する必要があります。魅力的な言葉を用いて、かつ内容を表したものにしましょう。
できれば1人で考えるのではなく、複数人でブレインストーミングを実施するなどしてたくさんの案を出し合い、その中から選択するといった方法が理想です。対象者にとってタイトルは、そのセミナーが興味を惹く内容かどうかを測る最初の指標になるものになるため、時間をかけて丁寧に決めたいところです。
全体の章の構成・見出しを調整する
次に、セミナー資料全体の章構成・見出しの調整です。
事前準備で決めた大枠の流れ・構成を基に、各構成要素をさらに落とし込んで章分けし、各章で伝えるテーマを組み立てながら、それぞれ見出しをつけていきます。書籍の目次を作るようなイメージです。
最後に、「全体を通して分かりやすい見出しになっているか」「順番は問題ないか」などを確認し、必要であれば調整します。特に、章の見出しはセミナー実施中に参加者を惹きつけておくための大事な要素になるため、他の人にも見てもらうなど、丁寧に確認することが重要です。
各章内の構成を調整する
章構成と見出しが決まったら、各章内で伝える内容の構成を調整します。章ごとのテーマに沿って、どのようなメッセージをどういう順番で伝えるかを細かく検討しておけば、次のプロセスである実際の作り込みがスムーズに行えるようになります。
ここでも最後に、「各章のメッセージに過不足はないか」「メッセージの順番は問題ないか」を確認のうえ、必要であれば調整します。
スライドの中身を作成する
ここまで来てようやく、各スライドの作成に入ります。前プロセスで検討したメッセージを着実に伝えるべく、後述する10のポイントにも十分に留意しながら、事前準備で収集したデータや情報を活用してセミナー資料の中身を作り込んでいきましょう。
また、多くの場合、セミナー資料の序盤には目次や会社・自己紹介パートを挿入します。作成する順番に決まりはありませんが、本編作成中に当初の構成を変更し、スライドの順番が入れ替わる可能性もあるので、目次については最後に作成する、もしくは変更の反映を必ず行う必要があります。
まとめを作成する
最後に、内容の振り返りやポイントなどの総括として、まとめのスライドを作成します。終了時間に近づくにつれ、参加者は冒頭の内容を既に忘れてしまっている可能性があります。記憶を呼び起こし、ポイントや結論などを最後に印象づけておく意味でも、まとめは非常に重要です。
まとめは、事前準備の際に明確にしたセミナーの目的を改めて意識しながら作成します。目的は、セミナーに参加することによって「対象者にどうなって欲しいのか」「どのように行動して欲しいのか」という「ゴール」と言い換えられるというのは前述の通りですが、まとめのスライドが当初の狙い通りに「そのゴールに向けた導線になっているか」は大きなポイントになります。
従って、参加者がセミナーの内容を踏まえて次に取るべきアクションや考えるべき内容が、具体的に明示されていると効果的です。
また、あらかじめ章ごとに小まとめを作っておくと、全体のまとめが作りやすくなる上、参加者の理解をより促せる可能性があります。必須ではありませんが、セミナーの時間や資料の長さも考慮しながら、検討するとよいかもしれません。
リハーサルを通してブラッシュアップを繰り返す
セミナー資料を一通り作成できたら、全体を通してリハーサルを行います。その際に意識しておきたい主な確認ポイントは以下の通りです。
- 時間配分
- 流れや構成に問題はないか
- 内容に矛盾はないか
- 資料の内容を効果的に伝えるためのトーク内容
机上では気づかなかった課題や問題が顕在化するため、リハーサルは重要です。それらを基に資料をブラッシュアップしていきますが、場合によっては時間配分などの関係で大幅に内容を書き換えたり、大胆に切り捨てたりといった調整が必要になるかもしれません。
ブラッシュアップ後は、再度リハーサルを行います。これを繰り返すことで、確実に資料が洗練され、セミナーの品質が向上します。最後に改めて、完成した資料でセミナー本番を想定したリハーサルを実施し、問題がなければ完了です。
セミナー資料を作成する際の9のポイント
参加者に伝わりやすいセミナー資料を作成するためには、ここまで見てきた手順を押さえるのと同時に、以下のように意識しておきたいポイントがあります。
- 文字は大きく少なく・適切なフォントにする
- 数値やデータは図やグラフで表現する
- レイアウトを統一する
- 大きさや縦横の位置を揃える
- 余白を入れる
- テキストのルールを決める
- 1ページで1つのメッセージにする
- 色のルールを決める
- テンプレートを活用する
セミナー資料を作り込む際、こういったポイントを確実に考慮できていれば、参加者の理解や行動を促せる資料になります。ここでは各ポイントについて詳しく解説します。
文字は大きく少なく・適切なフォントにする
文章などのテキストはできるだけシンプルに、文字数は少なくします。また、小さな文字では投影した際に見えにくいことがあるので、フォントサイズは大きめにすることを意識します。あくまで話を聞いてもらうことがメインであって、セミナーの参加者が資料を読むことだけに集中してしまわないよう、配慮する必要があるのです。
数値やデータは図やグラフで表現する
数値やデータは図やグラフなどで表現すると、見栄えが良くなるだけでなく、視認性が高まって参加者に伝わりやすくなります。特に比較や時系列情報などに関しては、テキストの羅列だけでは見栄えも悪いうえ、内容も伝わりにくいため、積極的に図やグラフを活用し、セミナー参加者の直感的な理解を促すようにします。
レイアウトを統一する
セミナー資料内の別箇所で、同様の表現をする部分や、同一の構成となるセクションについては、レイアウトを統一します。そうすることで、参加者が暗黙のうちに表示ルールを把握でき、内容の理解が早まります。例えば、「ページの見出しは必ず上部左端に配置する」「図やグラフは必ず下部にタイトルを入れる」「表はすべて同じ構造にする」などの工夫です。整然とした印象となり、見た目も美しくなります。
大きさや縦横の位置を揃える
レイアウトの統一に加えて、同一ページ内にある要素の大きさや縦横の位置を揃えることも大事です。バラバラで雑然とした印象を与えることは、セミナー参加者の意識も散漫になり、理解を妨げる原因となります。図やグラフ、テキストなど、同じ要素同士が揃った大きさで整然と並んでいると、見た目が美しくなり、視認性も向上します。
余白を入れる
テキストの文字を大きく、文字数は少なくしたとしても、隙間が少ないと窮屈な印象になってしまうため、適度な余白を設けます。図やグラフなども同様に、適度な余白を保ったうえで配置します。「情報を詰め込みたい」という気持ちから、ページいっぱいに文字や画像が配置されたセミナー資料も時折見かけますが、視認性が悪くなるばかりか、圧迫感を覚え、参加者はストレスを感じてしまいかねません。
テキストのルールを決める
視認性や分かりやすさの向上のためには、フォントの種類・サイズ・装飾のそれぞれについて、ルールを決めて統一を図ることも重要です。特別な意図がなければフォントの種類は統一し、見出し・本文・注釈などの同一要素ではサイズも合わせます。また、強調する目的などで装飾(太字や下線、斜体など)を施すのは理解を促進する助けになりますが、無駄な装飾は視認性を損ない、かえって分かりにくいセミナー資料となってしまうので注意が必要です。
色のルールを決める
セミナー資料全体のテーマカラー・文字色・背景色・強調する場合の色など、色に関するルールを決めることも重要です。同じ要素や内容であれば色を統一し、資料全体でも5色程度までに抑えることで、調和がとれた印象になり、参加者のストレスが軽減できます。
図やグラフなども同様に、多くの色を使いすぎないように留意しましょう。また、色同士の相性も考慮する必要があります。例えば、白地の背景に蛍光色で本文を書くのはあまり視認性が高いとはいえず、特別な狙いがない限りは避けるべきでしょう。
1ページで1つのメッセージにする
1ページで扱うメッセージ(中核となる内容)は1つに絞るというのも、セミナー資料を作成するうえでの重要なポイントです。同じページに複数のメッセージがあると、論点がぼやけて参加者の混乱を誘い、理解すべき趣旨が伝わりにくくなってしまいます。特に、大切なメッセージを他のメッセージと一緒にしてしまうと、肝心なことが伝わらず、セミナーの参加者の理解度が下がってしまう恐れがあります。
テンプレートを活用する
昨今は、セミナー資料のためのさまざまなテンプレートが、無料のものを含め数多く公開されています。自分の好みとセミナーの内容に合ったテンプレートが見つかったら、必要に応じて活用するのもおすすめです。テンプレートを活用する主なメリットは以下の通りです。
- 資料全体のテイスト(雰囲気)が統一される
- 洗練されたデザインで見栄えが良くなる
- 作成時間の短縮になる
ただし、あまりにも使い古されたテンプレートだと「他のセミナーでも同じテンプレートが使われる」「知っている人にはテンプレートであることが分かってしまう」などの注意点もあります。大きな不都合にはならないかもしれませんが、その点も考慮して検討しましょう。
また、公開されているテンプレートを活用したとしても、セミナーごとに一から資料を作成するのはそれなりの手間がかかります。そこで、一度作成した資料を独自にテンプレート化し、次回以降に活用することも有効です。
セミナー資料作りで失敗しないための注意点
セミナー資料を作成する際には、参加者のニーズと理解度に合わせた内容を提供し、セミナーの集客とその後の成果につながる内容を目指すことが重要です。
- 過度な装飾は避ける
- 参加者のニーズ・理解度に沿った内容に仕上げる
- セミナー集客やその後の成果につながる内容を目指す
以下に、これらのポイントを詳しく解説します。
過度な装飾は避ける
アニメーションなどの動きを活用することは、参加者の注意を惹くための1つの手法ですが、行き過ぎた装飾はしつこい印象を与え、理解促進を妨げる原因にもなります。過度な装飾は避け、派手な動きはここ一番の見せ所のみに絞るなど、工夫して使う必要があります。セミナーの話の内容よりも、装飾に注目されてしまうようでは本末転倒です。
参加者のニーズ・理解度に沿った内容に仕上げる
セミナー資料を作成する際には、参加者全員が理解できるように、専門用語や複雑な概念の使用は最小限に抑えることが重要です。また、参加者の疑問や関心に沿ったテーマや内容で進めることが求められます。
資料に専門用語が多く、参加者にとって難しすぎる内容であれば、参加者の関心を失う可能性があり、セミナーで知識を深めてもらったりリードにつなげたりといった目的を達成するのが難しくなる可能性があります。事前に参加者のバックグラウンドや専門知識を調査し、それに合わせた内容を提供することが重要です。
また、資料のレビューは専門家だけでなく一般参加者にも行ってもらい、理解度を確認する方法もあります。これにより、参加者が資料を理解しやすくなり、セミナーの満足度が向上し、セミナーの効果を最大化することができます。
セミナー集客やその後の成果につながる内容を目指す
資料の内容は、セミナーへの集客だけでなく、その後の参加者の行動や学習の成果に直結するよう設計する必要があります。価値ある情報や具体的な行動指針を提供し、参加者が次のアクションに移りやすくすることが重要です。
セミナー資料には、具体的なケーススタディや、参加者が自身の状況に応用できる実践的なアドバイスをなるべく盛り込みましょう。また、参加者が自身の問題解決や学習に活用できるリソースも提供します。
セミナー資料が、ただ知識を伝えるだけでなく、参加者の行動変容や学習の深化につながるような内容であると、参加者はリピート参加や次のステップである製品・サービスへの興味関心、他の人への口コミ効果などが期待できます。
まとめ
セミナー資料の作成手順と、その際に考慮すべき9のポイントについて解説しました。
セミナー資料作りは、参加者の理解度やニーズに合わせた内容を提供し、セミナーへの集客やその後の成果につながるような設計が求められます。過度な装飾を避け、「一貫性のあるレイアウトや色使いをする」「1ページにつき1つのメッセージに絞る」など、視覚的な要素も重要です。また、参加者が自身の問題解決や学習に活用できるリソースを提供することで、セミナーの価値を高く評価し、再度参加したいと思ってもらえるような内容にすることが大切です。
基本となる手順やポイントを押さえながら、参加者に伝わりやすい資料を作成し、ぜひセミナーを成功に導いてください。